近年、企業における人権尊重は、倫理的課題としてはもちろんですが、経営戦略としても、企業価値向上のための必須要件となっています。その背景には、国際社会における規制強化や投資家の期待の高まりがあります。例えばEUでは企業に対する人権デューデリジェンス（人権DD）義務化が進み、サプライチェーン全体にわたる人権リスクの把握と対応が求められています。日本企業の一部もこの規制の対象となる見通しです。

日本国内でも「ビジネスと人権に関する行動計画（NAP）」の策定を契機に、経済産業省などが国際基準に沿ったガイドラインを公表しました。こうした動きは、企業にとって「待ったなし」の課題です。人権尊重は、CSRやサステナビリティの一環にとどまらず、投資家や顧客からの信頼を維持し、事業継続性を確保するための重要な要素となっています。

交通インフラ業界の特性と顕著な人権リスク

交通インフラ業界は、鉄道・空港・道路など社会基盤を担う重要な分野であり、その事業特性から多様な人権課題が生じます。まず、乗客をはじめとする利用者への配慮が不可欠です。鉄道やバスでは、高齢者や障害のある人へのバリアフリー対応や、不当な乗車拒否の防止が求められます。航空業界では、人種や国籍などの属性に基づく差別を防ぐことが重要です。こうした対応は、単なるサービス品質の問題ではなく、利用者の尊厳を守る企業責任そのものであるといえます。

次に、従業員の労務管理に関する人権リスクが顕著です。運転士や乗務員の長時間労働、過密ダイヤによる過重負担、保守・清掃スタッフの危険作業、昇進機会の欠如など、労働者の心身の健康や安全を損なう要因は多岐にわたります。日本では慢性的な人手不足が続いており、こうした状況が人権リスクをさらに高めています。

さらに、インフラの新設や拡張に伴う地域社会への影響も見逃せません。十分な説明なく用地買収や工事を進めれば、住民の権利侵害に発展します。さらに、プロジェクトの遅延や訴訟リスクにもつながります。国際的な視点では、土地取得に伴う強制移転や生計手段の喪失、セメントや鉄鋼などの調達における児童労働や強制労働のリスク、気候変動によるインフラ破壊、新技術導入による雇用喪失やスキル格差など、複雑な課題が指摘されています。

交通インフラ企業が取るべき対策のポイント

こうした人権リスクに対応するため、企業は包括的なアプローチを取る必要があります。まず、利用者の権利を尊重した運営を徹底することが基本です。バリアフリー化や多言語対応の接客研修、利用者から寄せられる意見への対応プロセスの整備、車内や機内でのハラスメント防止策など、利用者が安心してサービスを利用できる環境づくりが求められます。

従業員に対しては、勤務シフトの見直しや労働時間の上限管理、健康診断や安全教育の定期実施、運行計画の余裕確保など、働きやすい環境づくりが不可欠です。過労による事故を防ぐためには、人員配置の適正化や業務プロセスの改善も重要です。

地域社会との関係では、計画段階から住民説明会を開き、環境影響評価や代替案を丁寧に提示し、住民の意見を反映する姿勢が信頼構築につながります。さらに、国際基準に沿ったサプライチェーンの人権リスク評価や土地取得プロセスの改善、気候変動リスクを考慮した設計・運営も不可欠です。こうした取り組みは、単なるリスク回避にとどまらず、企業価値の向上や持続可能な成長に直結します。

当社は、交通インフラ業界向けに、乗客対応から労務管理、地域共生まで網羅した人権研修を提供しています。研修はケーススタディ形式で、現場で活かせる知識とスキルを習得できる内容です。例えば、車内や空港で起こり得るトラブルへの対応策や、貨物輸送におけるサプライチェーン上の人権監査手法など、輸送業特有の事例を題材に、自社の課題に置き換えて考える実践力を養います。

実績として、鉄道業を中核に多角的事業を展開する企業に対し、約40社のグループ企業で人権デューデリジェンス研修を実施し、グループ横断の取組強化に貢献しました。こうした取り組みは、企業が国際基準に沿った人権尊重を実現し、社会的信頼を高めるうえで大きな力となります。

上記に挙げた他にも、交通インフラ業界における人権リスクは多岐にわたります。対応を強化したい企業のみなさまは、当社までお気軽にお問い合わせください。貴社の状況に応じた研修プログラムをご提案いたします。

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